植物の増殖・分化、再生、分化全能性の制御を調べる

植物の増殖・分化、再生、分化全能性の制御を調べる

現在取り組んでいる課題、これから取り組みたいと考えている課題は次のとおりです。

  • 植物細胞の極性形成、不等分裂のメカニズム
  • タンパク質の非対称分配のしくみ
  • 細胞分化のメカニズム
  • 細胞周期の可視化により、細胞増殖と細胞分化のシグナル制御を解明する
  • クロマチン構造の変化と幹細胞化、細胞分化の関わり。
  • 新規細胞周期因子の機能解析
  • 極性を制御するGタンパク質シグナル因子、新規極性ランドマーク候補因子、極性制御転写因子の機能解析。
  • 細胞外マトリクス(細胞壁タンパク質)が細胞骨格を介して細胞形態、細胞極性を制御するメカニズムの研究
  • 細胞極性、不等分裂における液胞の機能解析
  • 植物の幹細胞形成、維持のメカニズム
  • 植物細胞の無限成長、不死化のメカニズム
  • ストレスにより細胞極性が破壊される分子機構

研究内容をさらに詳しく

動物も植物もたった1つの受精卵を出発点とし、幹細胞を生み出し、増殖と分化を繰り返すことにより、さまざまな種類の細胞を生み出し成長していきます。考えてみるとこれはとてもすごいことです。そしてこのように細胞分裂により、もとの細胞とは性質の異なる新しい娘細胞を生みだす分裂のことを不等分裂(または非対称分裂)といいます。

不等分裂は多細胞生物の発生進化を理解する上で非常に重要な根本原理ですが、植物ではこの分子メカニズムはまだよくわかっていません。ゲノム解析により植物の不等分裂の制御機構は、植物特有のものだと考えられます。

私たちはヒメツリガネゴケをモデルとし、この幹細胞の不等分裂制御に関わる遺伝子のスクリーニングを行い、これまでに細胞極性因子、細胞運命や幹細胞の自己複製に関わる因子等を見出しました。この過程で不等分裂にともない非対称に分配されるタンパク質を見出しました(写真)。非対称分配のしくみの解明は、多細胞生物が成立する上でとても重要なイベントです。さらに未知の細胞周期制御因子も見出し、これら因子の機能解析も進め、分子遺伝学的手法、分子細胞生物学的手法、ゲノミクスをはじめとしたオミクス解析などを駆使し、植物特有の細胞分裂や運命決定の分子機構の全体像を解明したいと考えています。

また不等分裂の制御因子のいくつかが、細胞の全能性制御にも関わっていることがわかってきました。細胞の全能性とは、いったん分化した細胞がリプログラミングし、幹細胞化することだと考えられ、細胞周期の停止、再開といった過程が、全能性の制御にも密接に関わっていると考えられます。植物細胞の増殖と分化の分子ネットワークを解明することで、植物細胞がなぜ動物細胞よりも全能性に優れているのかを明らかにしたいと考えています。

本研究は、植物の細胞運命を人為的に最適化することを可能にし、農学や生命医学など広範な分野への応用展開が期待できる研究領域です。

研究者
藤田研究室
藤田知道 Tomomichi Fujita
大学院理学研究院 生物科学部門 教授